げんた堂Sayori ONISHI Official Site

<わりびき犬げんた>

犬を飼うと決めたとき、家族会議の結果、パピヨンという種類の犬がいいということになり、ブリーダーさんを探しました。いろいろ探したら、千葉県の奥地の方の広い敷地で繁殖している、感じの良いブリーダーさんを見つけました。電話して訪問日を伝え、犬を入れるキャリングバッグをホームセンターで買って、母と私で、電車を乗り継いで行きました。

オス犬がいいなあと思っていたのでそれを伝えると、
「今、たまたまメスが多くて…。オスはこちらの2匹です。
いまこの柵の中で一緒に遊んでいただいて、決めるのがいいと思いますから、
少し後でまた来ますね」と言ってお姉さんは去って行きました。

1匹は、白地に黒の模様があって、顔が整っていて、
利口そうで、見るからにおとなしい犬でした。
だっこしても、文句も言わずかわいい顔で見つめます。
もう1匹は、白地に茶色と黒の模様で、触ろうと思って手を入れたら
私の指にかりかり噛み付いて離しません。
子犬だから痛くはないし、驚いて手を引っ込めたら外れます。
でもまた手を入れたら別の指にかりかり噛み付くのでした。
顔は、私は犬業界でどんな顔がいい顔なんだかさっぱり知りませんでしたが、
その犬は、人間で言ったら愛嬌のある3枚目かなあと思いました。

母は、あなたが決めなさい、と言ったので、私は迷わず噛み付く犬を指して
「この犬がいいです」とお姉さんに伝えました。
後で話を聞いた所によると、母はびっくりしたそうですが。

ともかく、お姉さんは、「えっ、こちらの犬ですか?ちょっとお待ち下さい」と言って事務所に消え、「鼻がまっくろけでたぬきみたいだから割引します」と言ったのでした。

こうして、マリーアントワネットが飼っていたと言われるパピヨンと言う種類の犬が、ちゃぶ台が現役で居間にある我が家に来ることになり、そのうえ私が源太という名前を付けて、家族会議により賛成多数で可決されました。
うちは血統書はいらないと言ったのですが、げんたのお父さんは由緒正しい犬らしく、(他の犬のための)血統書のために家系図が必要なので、名前を知らせて下さいと言われ、電話で「げんたです」と言ったら、「えええっ、げんたですか……(しばし絶句)えっと、英語表記になりますので、G E N T A でよろしいでしょうか」と言って電話を切ったのでした。

私はげんたが家にきて、本当に良かったと思っています。
でも、最初から、こっちは割引ですって言われていたら、選べたかと考えると
心配な気持ちになります。
自分の感覚では、げんたが好きだった。でも、私は割引だから選んだのかなって
そういう気持ちと一生たたかわなくてはいけなくなったかもしれない。

私はげんたが好きだけど、鼻のまわりがたぬきみたいだから好きなわけではありません。
げんたという固有名詞を抜きにして、鼻のまわりが真っ黒けの犬と白くて綺麗な犬とどっちが美形って尋ねられたら、私も、白くて綺麗な犬と言うと思います。
だけど、げんたの、見た目も性格も、
いいところも悪いところもひっくるめてげんただから、
どれも、ひとつでも、抜けてしまったらげんたじゃないから、
げんたが好きなんです。

まあともかくも、げんたはそんなこと僕にとってはどうでもいいという顔で
今もすやすや眠っています。